Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
こんな時間に尚哉が電話を掛けてくるなんて、今までなかった。
一瞬、何か胸騒ぎを感じた。
「あ、もしもし?」
奈緒子が慌てて出ると、尚哉の
『お疲れさん』といつもの声が聞こえてきた。
『今、新横浜にいるんだけど。
金曜の京都行きのチケット、奈緒子の分、今買っておこうかなと思って。
仕事終わって、何時に新横にこれそう?』
なんだ、普通だ…と奈緒子は安堵する。
「うーん。そうねぇ…」
尚哉の問いに答えながら、奈緒子は思う。
今、尚哉が新横浜にいるのは、彼女を駅まで見送ったからだろうと。
彼女が広島へ帰ってしまった途端、女友達の京都行きのチケットを買うなんて。
……酷い男。
でも、いい。
一緒にいられるなら。
今となっては、初恋の恵也は過去の存在となり、目の前にいる尚哉が欲しかった。
風呂から出た奈緒子は、自室のベッドに横たわり、スマートフォンを弄り出す。
ツィッターやらフェイスブックも以前はまめにやっていたけれど、面倒臭くてこの頃はほったらかしだ。
観てないのにテレビも点いていて、料理の腕を競うバラエティ番組をやっている。
母がいれば、
「観てないなら消しなさい」と怒られること間違いなしの悪癖だけれど、ずっと昔からやっていることだ。
治そうなんて思ったことはない。