Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
あとは、3人、もくもくと食べた。
だけれども、奈緒子を見る父母の目は温かかった。
味噌汁の出汁の匂いに充ちた、和やかな朝の風景。
なんとも言えない安堵感に包まれる。
満腹になった奈緒子は、シャワーを浴びた。
風邪を引いたわけでもないのに、部屋に篭り切りで3日ぶりの入浴だった。
熱めの湯を身体に当てると、傷付いた心の痛みが少し和らぐ気がした。
尚哉は時間通りに現れた。
人混みの中、奈緒子を見つけた瞬間、敬礼するように右手をかざす。
目の前に立った尚哉は、ヘアワックスを使い、トップを逆立てるような髪型をしている。
黒いパーカーにジーンズという出で立ちの彼は、奈緒子を見て目を丸くする。
「なあに?」
久しぶりに会ったのに、奈緒子は突っかかるような言い方をする。
「髪切ったんだ。しかも黒いじゃん」
尚哉はジーンズのポケットに両手を差し込み、言い訳みたいにいう。
昨日まで奈緒子のセミロングの髪は茶色く、ウェーブがついていた。
半年前、恵也の友達の美容師見習いの彼女にかけてもらった下手くそなパーマ。
前の方はゆる過ぎて、後ろはかかりすぎの。
安い薬剤のせいで、激しく痛んでしまっていた部分を全部切った。