Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
恵也以外の男の子と2人きりで出掛けるのは、初めてだった。
電車の中でも、並んで座る。
恵也とは、遊園地に来たことがなかった。
意外にも恵也は動物好きだったから、
動物園には、何度か行った。
そこで恵也はメモ帳を取り出し、また変なスケッチを描いて、奈緒子を笑わせた。
そんな思い出も、今は切なかった。
日曜日の遊園地は、家族連れや若い学生グループで賑わっていた。
奈緒子の分のフリーパスも、
尚哉が買ってくれた。
「バイト代、入ったから」
と前を見たまま、ぶっきらぼうに言って。
やたらあちこちで飛んでいる赤とんぼをかき分けるようにして、J-POPの流れる園内を歩いていると、少しずつ気持ちが浮き立つのを感じた。
「あれ、乗ろう」
いくつか並ぶ乗り物の中で、真っ先に尚哉が指を指したのは、広い敷地内の遥か向こうにそびえる、巨大木製ジェットコースターだった。
膨大な数の木片を組み合わせたかような異形の建造物。
「えっ…」
白い雪山のようなその姿に、
さすがの奈緒子も怖気づく。
「今なら空いてる。行こう!」
尚哉は奈緒子の肩に軽く触れ、さっさと列に並ぶ。
30分程で、順番が回ってきた。
狭いコースターの座席に並んで乗ると、腕と腕が触れ合う。
(まるで、今日両思いになったカップルみたい…)
奈緒子は思う。
実際は、彼氏に振られた女と、その彼氏の弟なのに…