Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


「あー、面白かったあ!」


午後のベンチで、奈緒子は晴れ晴れとした声を出す。


「お化け屋敷なんて、
初めてはいったかも〜」


大声を出し過ぎて、喉がからからだった。


ジェットコースターが猛スピードで曲がるたびに身体が外へ放り出されるような感覚。
空に届くほど高く登ったかと思えば、真っ逆さまに落ち、地面に叩きつけられそうになる。

あまりの恐ろしさに、
絶叫せずにはいられなかった。


お化け屋敷では、真っ暗な闇の中に潜む、偽物と分かり切った仕掛けに思い切り悲鳴をあげた。

尚哉の腕にしがみ付き過ぎて、外へ出た時、少し気恥ずかしかった。



「でも、恵也の『パープー号』の後ろに乗って、ものすごいジグザグ走行された時に比べたら怖くないなあ。
奈緒子、あの時、
マジで死ぬと思ったもん!」


自然に明るい声が出る自分に、
奈緒子は気が付く。


大声を出しているうちに、心恵也の存在がどんどん小さくなり、気持ちが軽くなるのを感じた。


「そう」

尚哉は、ジーンズのポケットに両手の親指を掛け、口の両端だけ引き上げてニッと笑う。



「坂本、腹減らない?
そろそろ飯食う?」


尚哉が言い、奈緒子は腕時計を見る。

もう2時過ぎていた。

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