Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
尚哉は、奈緒子より頭ひとつ分だけ背が高い。
ちょうど、奈緒子の目の前にくる、尚哉のつんと突き出た喉仏。
それは性的な象徴にも見える。
(尚哉って、経験あるのかなあ…)
ふと、奈緒子は考えてしまう。
尚哉の、異性である自分に対して取る距離は、付かず離れずの微妙なものだ。
「食べる?」
ふいに、尚哉がソフトクリームの出店を指差した。
「あ…うん」
自分が不埒な考え事をしていた時、尚哉はソフトクリームの事を考えていた。
(馬鹿みたい、私…)
恥ずかしくなり、慌てて頭を振る。
(そんな想像 、尚哉に対して失礼すぎるよね…)
「私、ソフトクリーム、尚哉の分も買ってあげる!フリーパス買ってくれたお礼」
「え、いいよ。そんなの。
俺がそっちを誘ったんだし」
尚哉は首を横に振る。
「だめ!このくらい払わせて!」
奈緒子は強引に尚哉の前に割り込み、千円札を店員に手渡した。
「ありがとう」
尚哉が両方の口角をあげるやり方で、
微笑む。
その笑顔を奈緒子は好ましく思う。
2人でベンチに腰掛けた。
陽は勢いを弱め、冬の気配を感じた。
「うわあ、美味しい!」
冷たく甘い味が嬉しくて、奈緒子は脚を交互にバタつかせ、はしゃいで、言った。
舌の先でクリームを掬いながら、
奈緒子はふと思う。
恵也なら、必ずこういう場面で卑猥なジョークを飛ばすだろう、と。