Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ 赤いパスケースとビートルズ
(やだあ…
尚哉もそんなこと考えるかな…?)
口をすぼめ、意識して、舌を出すのを最小限にする。
そんなことは思い過しだと分かっていても。
「ねえ、尚哉って彼女いないの?」
話題を変えたくて、あまり訊きたくない質問なのにしてしまった。
尚哉はソフトクリームを舐めながら、目線を上にして首を傾げた。
「彼女ねぇ…今はいないかな」
「今は?」
「1年の時はいたけど、俺の放置が原因で別れた」
「ひっど〜い、なんで放置しちゃうの?」
「うん。彼女いたら楽しいけど、結構面倒臭いこともあるでしょ?
せっかくの休みの日で色々やりたいことあるのに、逢う約束しなきゃいけないとか。
逢わないと、次の日、何してたの?とか色々訊くじゃん。
夕飯何食べたの?とか
テレビ何観たの?とかさ」
尚哉は苦笑する。
奈緒子は首を傾げた。
「えっそう?
奈緒子はそんなこと訊かないけどー」
彼女はいない、という言葉が奈緒子には、なぜかとても嬉しかった。
「俺さ、ビートルズ好きなんだ」
尚哉はぽつり、と言った。
「ビートルズ?」
奈緒子はやっとコーン部分に噛り付いたところなのに、いつの間にか、尚哉はソフトクリームを食べ終えていた。
「俺の生みの母親は、俺が赤ん坊の時に病気で死んだんだ。
父親が恵也の母ちゃんと再婚するまで、爺さんと婆さん、父親と俺4人で暮らしてた。
父親とは、今でもたまに会ってる。
外航船員なんだ」
2人の目の前を、黄色い風船を持った小さな子供が通り過ぎて行った。
「がいこうせんいん?」
奈緒子は尚哉の方を見る。