Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「17歳の誕生日、おめでとう。
これプレゼント」
赤いリボンのかかったそれを、
奈緒子に差し出した。
「えっ…尚哉…知ってたんだ」
「歩き通学だから、今は必要ないかもしんないけど」
尚哉がにっこりと笑った。
「嬉しい…ありがとう」
一瞬、また目頭が熱くなり、片手で口元を覆う。
涙がこぼれそうになったけれど、なんとか堪えた。
恵也のいない誕生日が悲しくて、今日で17歳になることを知らんぷりしていたのに。
「本当にありがとう…」
礼を言いながら、恵也の存在が少しずつ奈緒子の中で薄れていき、思い出に変わっていくような気がした。
「ね、尚哉の誕生日はいつなの?」
「俺?教えねえ!
お返しとか絶対いらねえよ!」
尚哉はジーンズのポケットに両手を入れ、人懐こい笑顔で言った。
「え、でも…」
「じゃな!お疲れさん!」
いつまでも、バイバイを言い合う女友達とは違い、尚哉は軽く片手をあげたあと、あっさり踵を返す。
夜の闇に消えていくひょろりとしたその後ろ姿を見ながら、
(明日は学校に行こう……)
と奈緒子は思った。
遊園地に行った日、帰り際に尚哉から手渡された小箱。
中には、赤い合皮革のパスケースが入っていた。
尚哉が選んでくれたプレゼントが嬉しくて、その夜、奈緒子はそれを枕元に置いて眠りについた。
『今は必要ないかもしれないけど』
尚哉の言葉通り、徒歩通学の奈緒子には、必要ないものだったけれど。
高校卒業後、英語の専門学校に進んだ奈緒子は、そのパスケースを擦り切れてボロボロになるまで使った。