Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
藤木さんに「変な噂が立つとまずいから、誰にも言わないであげて」って言われたけど、こないだ、つい、ユカリに喋っちゃったあ、テヘ!
だって〜、こんなネタ、心の中にしまっておけるわけないじゃん!
めちゃ、ウケた!
ユカリ、うわあ、キモ〜って、お腹抱えて10分以上、笑い転げてた〜
…ま、ユカリは口固いから大丈夫!
ところで、今日、奈緒子さんは、自分の赤いボストンバッグをローカールームの隅に置きっぱにしている。
奈緒子さんは、心配性なところがあって、余計なものばかり自分のロッカーに詰め込んでるから、ボストンバッグが入らない。
ただでさえロッカーは狭いのに、奈緒子さんのその中はすごいことになっている。
ちょっとゴミ屋敷みたいだ。
前に『何をそんなにロッカーに入れてるんですか?』って訊いたら、教えてくれた。
『万が一の備え!
備えがあれば、憂いなしじゃない?
大地震が起きて、帰宅困難者になった時のために、スニーカーと着替え。
メイク道具もいるでしょ。
水のいらないシャンプーにアルミ製の保温シート。
ペットボトルのお茶やジュース。
パンの缶詰とか、お菓子とか。
あと、簡易トイレね!』
……引いた。
…びっくりした。
簡易…って。
気持ちは分かるけど。
いつも遅刻ギリギリに来る私が、
制服に着替えながら何の気なしに、
ボストンバッグの方をちらりと見ると。
バッグの外ポケットに、小さな本が差し込まれているのが視界に入った。
制服のブラウスのボタンを留めながら、覗き込むようにすると。
……その本の背表紙には「京都」の文字があった…