Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
知り合いなんだ、良かった…
安心した奈緒子の前に、突然、紫色の水風船が
ぴゅっ!と飛んできた。
奈緒子は、条件反射みたいにそれを両手で受け止め、男の顔を見る。
「ナーイス、キャッチ〜」
男はハスキーな声で歌うように言った。
細い目を人の良い感じに、さらに細めて。
少し開いた口元の右側に、可愛い八重歯が見えた。
その男は煙草を口に咥え、空いた手をポケットに突っ込む。
身体を揺するようにして奈緒子のほうを向くと、宣言するように言った。
「お前、可愛いじゃん」
(えっ…!?)
奈緒子の心臓は爆発しそうに高鳴る。
男の子にこんなにはっきり「可愛いい」なんて言われたのは初めてだった。
「俺と付き合わねえ?」
男は真っ直ぐに奈緒子を射るような眼差しで見つめる。
視線が絡まり合った瞬間、奈緒子は全身に電流が走ったような衝撃を受けた。
知らぬ間にぽとり、と手からと紫色の水風船が落ちて、足元に転がった。
夏の夜風が、提灯飾りをサラサラと揺らす。
盆踊りの炭坑節が遠くから、聴こえる。
14歳の奈緒子は、一瞬にして熱病にかかってしまったように、尚哉の兄、
藤木恵也に恋をしてしまった。