Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


こんなことなら、小さなスーツケースにすれば良かったと後悔したけれど、もう遅い。


そんなバッグを持って奈緒子は、新幹線に乗る前、横浜のデパートのランジェリー売り場へ寄った。


ネイビーブルーと白の細い縦ストライプのワンピースは、ワインレッドの細いベルトでウエストを細く見せるデザインだ。

尚哉のストライクゾーンなのは、
間違いない。

きっと気に入ってくれるはずだ。


…そして、そのワンピースの下に隠されているのは。


細身の奈緒子の身体を覆っているのは、横浜のデパートで買い求めた深紅の繊細な総レースのランジェリー。


メイドインフランスの高価なブラジャーとショーツのひと揃いだ。



奈緒子は、ある決意をしてきた。


はっきりさせたかった。

このままじゃ嫌だった。


……今夜、尚哉に抱いて欲しい。


広島の彼女から、奪いたい。


京都で、食事の後、尚哉の目を見て、
『自分を選んでくれ』と懇願する。


ダメなら、一夜の限りの遊びにする。


そして、京都旅行が終わったら、この恋をきっぱり『諦める。』


別々の部屋を取っているけれど、尚哉だって30過ぎた大人の男だ。


奈緒子の気持ちに
全く気づいていない訳がない。


自分を京都に誘ってくれたのは、尚哉だ。

それが一縷の望みだった。


運命の赤い糸を信じていたのは、少女の頃。


31歳の奈緒子は、
深紅のランジェリーに願いを込める。



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