Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
Bitchには、負けない!


新幹線「のぞみ」が広島から新横浜に着いたのは、午後2時過ぎだった。


水谷アヤネは、駅に隣接するファッションビルの一画にあるチェーンのコーヒーショップで、文庫本とカフェモカで時間を潰していた。

足元には、小さな銀色のスーツケース。


まだホテルのチェックインまでには少し時間があった。


本当は読書は苦手だった。

でも、文庫本を開く知的な女の姿には憧れる。


だから、本の内容は、女性タレントが昔書いたハードカバーが文庫本になったエッセイ。


もう、旬はすっかり過ぎたタレントだけれど、時間つぶしにはちょうど良かった。



この店は、アヤネのお気に入りだ。

2年前に初めて訪れてから、上京する度に利用していた。


隣席との間が充分に取られ、ゆったりとしたソファ席。


静かなクラシックのBGM。

この店は、アヤネの住む広島では見かけなかった。


これから土曜、日曜の2日間、こちらで過ごす。

しばらく広島弁は封印だ。


7歳年上の恋人、藤木尚哉はアヤネのお国言葉をとてもセクシーだと褒めてくれるけれど、こちらに来たら、
『郷に入れば郷に従え』。


それに広島弁は、関東の人間には、少し乱暴に聞こえるようだと感じたのも封印の一因だ。



アヤネのスマートフォンが、シロフォンの音を立てた。


(ええ?なんや、まだ時間あるのに…)


アヤネは訝る。

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