Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


とっておきの本命は尚哉。

普段使いの遊び相手は学。

これで充分楽しかった。
完璧なはずだった。

しかし、この作戦でうまくいっていたのは、半年の間だった。



1年前のこと。

ふた月ぶりの尚哉との逢瀬だった。


夜、尚哉はアヤネをスペイン料理の店に連れて行ってくれた。

本格的なパエリアを初めて食べ、アヤネは大満足だった。


二人で手をつなぎながら、いつもの新横浜のホテルのロビーに戻った。


ウィンドウに映った自分の姿を、
アヤネは横目で素早くチェックする。

栗色のエアリーなショートヘアに、
小粒のパールが並んだお気に入りの
カチューシャ。

とっておきのレース素材の白いミニワンピース。

袖がパプスリーブになっているそれは、ちょっとネグリジェのようだけれど、
尚哉は『すごく可愛いよ』と褒めてくれた。

ちょうど夏休み時期で、ホテルは満室のようで、広いロビーは人で溢れていた。


『混んでるから、ここで待ってて』

『ありがとう、尚哉。待ってるね!』


アヤネから離れ、尚哉は預けていた部屋のキーを取りにフロントのほうへ進んだ。


フロントの前に出来た、人垣の後ろで待つ尚哉の後ろ姿を見て、アヤネは少し苛立つ。


すぐに部屋に戻りたいのに…


アヤネは尚哉に分からないように、小さく舌打ちした。

昔から、アヤネには、短気なところがあった。

尚哉の前では、拗ねたふりなどしてなんとかうまく隠していた。

アヤネは、空いていた背もたれのないソファに腰を下ろす。
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