Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
[当てつけなんかじゃないよ。
ただ、アヤネの涙を見て、気付いた。
友達とはいえ、彼女の事を黙っているのは、フェアじゃないって。
彼女に対しては、元同級生ってだけじゃなくて、昔から特別な想いがあるんだ。
変な意味じゃないよ。
少年時代の思い出みたいな感じかな。
アヤネには、本当に申し訳ないけど…
週末、横浜に来たいなら、
来ても構わないよ。
スペイン料理にも連れて行くよ。
ホテルも予約しておく。
ただ、シングルルームにする。
俺はもうアヤネと同じ部屋には泊まらない。
俺たちはもう、修復出来ない。
アヤネがそれを納得してくれるまで、俺は時間掛けるつもりだよ]
優しいけれど、冷静な文面。
長文のメールなど、寄越したことのない尚哉が、ここまで自分の気持ちを正直に打ち明けるなんて。
これまでの付き合いで、彼に潔癖な面があるのは知っている。
アヤネはひしひしと感じた。
…尚哉の心が、完全に自分から離れてしまったのを。
尚哉とは、4年前、アヤネの勤め先の
ゴルフクラブで出逢った。
本来、アヤネはフロント係だ。
けれど、周りはパートさんばかりの中、数少ない正社員だから、人が足りなければ、上司の指示で売店やら、レストランのウェイトレスやらなんでもやる。
臨時のキャディーをやらされるのが、
1番憂鬱だった。
ちゃんと研修は受けているものの日焼けするのが嫌だったし、ここのゴルフクラブは歴史が古く、比較的年齢層が高い。
客は企業の役付きのおじさま方が多く、アヤネは彼らが苦手だった。
品の良いロマンスグレーなんて50人に2,3人だ。