Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
その後、その元同級生女と尚哉が逢っているのか、アヤネは知らない。
そんな女のことなど、知りたくもないし、訊きたくもなかった。
尚哉の前では、何事もなかったように振舞った。
とにかく、眼中に入れたくなかった。
昨夜だって、アヤネが何度もスマホに電話したのに、尚哉は全然出なかった。
用件は他愛ないことで、真の目的は尚哉がどこにいるのかチェックしたかっただけだけれど。
朝になって、やっと着た尚哉からメールには、[残業して、帰ってすぐに寝たから電話に気付かなかった]と書いてあった。
アヤネは思う。
ーーそんなのミエミエの嘘…!
バレバレや!
あの女と逢っていたくせに…
でも、分かっている。
自分には、尚哉を責める資格などないことを。
どうしたって縮まらない広島と横浜の距離。
尚哉は優しいだけだ。
アヤネを愛してはいない。
もうとっくに結論は出ていた。
[了解〜彼とご飯食べ終わって、サヨナラしたら、メールします。
だいたい、9時頃かなあ。
缶チューハイとなんかおつまみ買ってきて。出掛けるの面倒だから、ホテルの部屋で飲もう!]
アヤネは、学にメッセージを打ち、タッチパネルの送信ボタンを押した。
(アヤネもあの女に負けないくらい、
Bitchかも…)
そんなことを思いながら、ふと、カフェの壁に貼られた『ジンジャーココア』のポスターに目をやる。
新メニューと記されていた。
「へぇー…コレ、美味しそう…
飲んでおこうかあ…」
アヤネは、空になったカフェモカのカップを右手に持ち、立ち上がった。
カウンターに向かいながら、このカフェに来ることも、尚哉に逢うことも、
今日が最後にしようと思った。