Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


奈緒子が意を決して男の方に視線を向けた時。


いきなり、場違いな艶かしい肌色が目に飛び込んできた。


(キャッ…!)


奈緒子は驚き、もう少しのところで悲鳴をあげるところだった。


男の広げた新聞には、全裸で横たわる女のカラー写真が、三面記事ようにでかでかと載っていた。


『濡れ過ぎちゃって困るワ♡』

などとピンク色の見出しが躍る。


奈緒子は呆れた。


…隣に若い女性がいるのに、そんな新聞を広げるなんて。

無神経過ぎる。
タダモノではない。

さっきみたいにうたた寝をしてしまったら、男に痴漢されてしまうかもしれない。

変な緊張しながら、京都まで過ごすのはごめんだ。


(車掌に頼んで、空席があれば座席を変えてもらおう…)

奈緒子は、車窓の方を向いて思う。


だが、通路に出るには、男の膝の前をすり抜けなければならない。

億劫だけれど、一声かける必要があった。

少し腰を浮かし、男によそゆきの声で言う。


「すみません。申し訳ありませんが、
通らせてもらっていいですか?」


「あれ…っ」


隣の男が声を発した。


その声を聴いた瞬間、奈緒子は弾かれたように男の顔を見た。


「あ〜っ!」


頓狂な声を上げ、凝視したまま固まる。

男は、さっとサングラスを頭上に押し上げ、素顔を晒した。



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