Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


「奈緒子だろ?俺、恵也だよ。
すっげえ偶然だなあ!」


「えっ、嘘お!恵也!?」


奈緒子は両手で口元を押さえ、間違いないと知ると、さらに大きな声を上げた。


「すっごーい!奇跡みたいな偶然!」


15年ぶりの再会。


大好きでたまらなかった
1つ年上の藤木恵也。


14歳の時、夏祭りで出逢い、初めての
恋に落ちた。

それから2年間、フラれてしまうまで、奈緒子は恵也一色の青春を過ごした。


15年ぶりに逢った恵也は、少しだけ肥え、風貌は変わっていたけれど、細くシャープな目元は変わっていなかった。


「お1人様かよ?旅行?どこに行くの?」


ガサガサと音を立てて、新聞を乱雑に畳む。
たて続けの質問しながら、恵也の茶色の瞳は小刻みに動き、奈緒子の変化を探ろうとしていた。


「京都に行くの。向こうで友達と待ち合わせしてるんだ。恵也は?」


奈緒子の視線は、恵也の唇あたりで止まる。

そのすぐ上にある、よく手入れされた口髭は、恵也を精悍な男に見せていた。

突然抱きしめられ、キスをされるのでは…と奈緒子は妄想に駆られる。


そんなことが、あるはずがないのに。


「へえ。俺も京都なんだ。
駅前のホテルで取り引き先の会社の会長の還暦パーティーがあってさ。
それに招かれてる。
このご時世に気前いい話だよなあ」


滑らかによく喋るその姿は、初めて公園で会話を交わした時の彼を思い出させた。

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