Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「俺、今、台湾に住んでるんだ。
20歳の時に旅行で行ってよ。気候と雰囲気が気に入っちまって住み着いた。
日本には、久しぶりに戻ってきたよ。
3日前から来てる。
まだ実家に顔出してねえけど。
名古屋に昔の悪友がいてよお。
昨日はそいつに名古屋案内してもらったんだ。城見て、手羽先とか食ってさあ。
で、奈緒子は元気だったのかよ?」
旅行……?
……女を追いかけて台湾へ渡ったはずなのに。
奈緒子は心の中で苦笑した。
相手の反応お構いなしに饒舌に喋る様子は、夏祭りの翌日、初めて公園でデートした時の16歳の恵也と重なる。
茶髪でやんちゃだった初恋の彼。
「うん。台湾に行ったのは知ってたよ。尚哉からきいたよ」
奈緒子の言葉に恵也は
「えっ、尚哉?なんで?」と驚いた。
恵也は、奈緒子と尚哉が同じ会社に勤めていることを知らなかった。
「へえ〜…まあ、俺、ほとんど、こっちに、帰ってこねえし」
恋人同士だった頃、恵也は一緒にいる夜は必ずといっていいほど奈緒子を抱いたものだ。
まだ17,8歳だったのに、大人びた技巧とタフさで奈緒子を女にし、共に快楽に溺れた。
奈緒子の身体は確かに、その時の甘い蜜を今でも覚えていた。
2人とも子供だったから、繕うことを知らなかった。
欲しくなってしまえば
「愛しているから」と学校内でも、ショッピングモールの片隅でも、公園でも、抱き合ってキスを交わしていた。
今思い返すと、顔から火が出そうだ。