Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
恵也はククッと笑う。
奈緒子が自分の誘いを断るとは思っていないに違いなかった。
いいね、と答えながら、恵也のペースに乗せられないようにしなくては、と奈緒子は警戒する。
昔のこととは言え、本当にひどい別れ方だった。
男性不信に陥ってしまった17歳の奈緒子は、それから20歳過ぎるまで恋が出来なかった。
社会人になり、彼氏が出来ても、少しでも冷たい素ぶりを見せられると、捨てられてしまうのでは、と怖くなり奈緒子のほうから切ってしまう。
そんなことを繰り返していた。
1人でいる方が楽だと思っていた時期もあった。
奈緒子にとって恋は、幸せなものとは思えなくなっていた。
20代の終わりになって、ようやく本当に愛してると思える男と、巡り合えた。
それが恵也の弟、藤木尚哉で、しかも先の見えない恋だとは…皮肉としか言いようがない。
京都駅に着いたのは、午後4時半過ぎだった。
「すっげえ懐かしい京都タワー!」
プラットホームを歩きながら、恵也は和ロウソクをイメージしたその建造物を
嬉しそうに指差す。
遥か向こうに見える東山三十六峰の山並み。
街のところどころに、神社仏閣の屋根が垣間見えるのが古都京都らしい。