Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


京都駅の地下道を歩きながら、恵也は快活に中学三年の時の修学旅行の話をする。


「昔、京都タワーの中にバッティングセンターがあったんだ。
夜、4人ぐらいでホテル抜け出して、タクシー拾って、打ちにいった。
今日も行きたかったんだけど、ネットで見たら、もうとっくにないんだな、残念!」


「へ〜。先生にばれなかったの?」

クスクス笑いながら訊く。


「ばれてた。
ホテル戻ったら、体育の鈴木が仁王立ちして待ち構えてた。
1人の奴が『恵也がしつこく誘ってきた』とか俺のせいにするし。
ざけんな、誘ってきたのおめーじゃねーかって、京都でまさかの仲間割れ」


…バッティングセンター。

昔、野球が好きな恵也とよく行った場所だ。
奈緒子は、見ているだけだったけれど。




ーー久しぶりに奈緒子の顔見れて、マジで嬉しいよ…
どうしてるのかな?って時々、思い出してたから。
友達と待ち合わせまで、時間あるんだろ?俺の今夜泊まるホテル、スカイラウンジがあるんだ。
そこでゆっくり話そう?


新幹線の車内で優しい声で誘ったくせに、恵也は、ボストンバッグを肩に掛け、喋りながらずんずんと歩いていく。


奈緒子はヒールの靴で大きな荷物を抱えているのに、お構いなしだ。

恵也の歩調に合わせ、ほとんど小走りに着いていく。


こんな時、尚哉なら歩調を落として奈緒子に合わせるのに。

『大丈夫?』と奈緒子に訊き、首を振れば、荷物を持ってくれる。

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