Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
タクシーの後部座席の中で、
奈緒子は思い出していた。
ーーへえ〜……
お前と尚哉って、そんなことになってたんだ…
眺めの良いラウンジ。
夕焼けの京都市街が一望出来た。
ポツポツと灯りがともる。
窓際の小さなコーヒーテーブルを挟んで、向かい合った恵也は、感心したように何度も頷いた。
ブラックコーヒーを一口啜ったあと、窓の景色を見ながら、独り言のように言った。
ーーコングラチュレーションだね、尚哉……
初恋が実って。
『初恋が実って』
ーーえっ⁈
恵也の口から発せられたその言葉は、
奈緒子にとって衝撃だった。
いつのまにか、指がコーヒーカップから離れてしまい、ソーサーの上に落下した。
ガチャン!と大きな音が静かな店内に
響き渡り、奈緒子は肩をすくめた。
ーー奈緒子、知らなかった?
…ガチでマジな話。
あいつ、俺がお前と別れた時、すげえ怒り狂ってさ。
いきなり俺の部屋に入ってきて俺に殴りかかってきた。
あの尚哉がだぜ?
前から奈緒子のこと好きだったけど、恵也だったから、諦めたんだって。
奈緒子がどんなことになってるのか分かってるのかって、顔真っ赤にして、
泣きながら絡んできやがって。
俺も『ざけんなてめーに関係ねえ』って応戦して、殴り合いの大げんかになった。
直したばっかの引き戸の窓ガラス、
また割るわ、壁に穴が開くわで家ん中、無茶苦茶。
あんな尚哉、本当見たことなかった。
俺も母ちゃんもビックリだったな……
恵也は少し笑って、また、ひと口
ブラックコーヒーを啜った。