Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


仕事帰りのはずなのに、尚哉はなんだかやけにさっぱりとして見えた。


「尚哉あ…すごくいい店ね!」


奈緒子は猫みたいに、甘えた声を出して
擦り寄った。


「この店、技術部の関川部長に教えてもらったんだ。
部長、奥さんとよく京都行くって言うから、お勧めの店きいておいた。ボーナス入ったし、ここは俺に任せろよ」


案内をする女将の背中の後ろで、尚哉が言った。


「えっ!いいの?
関川部長、尚哉が婚約者でも連れて行くと思ったんじゃない?」


「まあね。こんな店に連れてくるのは、特別な子だよね」


奈緒子は軽口のつもりで言ったのに、尚哉は前を向いたまま、さらりと流した。

会話を聴いていた女将が振り向き、頷くように奈緒子に柔らかい笑顔をみせた。


….えっ?


奈緒子の歩みは一瞬止まってしまう。



特別な子…?


確かにそう尚哉は言った。

ヒールが石畳みに引っかかってしまったふりをして、慌てて尚哉の背中を追いかけた。


いかにも女性が喜びそうな上品な細工が施された先付けが、運ばれてきた。


瑞々しい豆富の上に雲丹とキャビアを乗せた贅沢な一品に、奈緒子は驚嘆する。


ビールで乾杯した後、奈緒子が新幹線の中で、恵也と偶然に出逢ったことを話すと、尚哉はビールの泡を吹いてしまうほど驚いていた。



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