Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ 紅いランジェリーのサンダーソニア
「料理じゃなくて、花の名前訊くなんて、フェイントだね」
尚哉は手酌で自分のグラスにビールを次ぎながら、少し呆れた風に笑う。
「フフ、そうお?」
奈緒子は鱧を突つきながら、首を傾げてみせた。
しばらくして戻ってきた給仕は、
「それは、サンダーソニアといいます。ユリ科で、別名は、チャイニーズ・ランタンといいます。夏のお花です」
と京訛りで言った。
誰かの受け売りと丸分かりな答え方。
けれど、初々しい給仕係の彼女に、奈緒子は好感を持った。
「女って、花が好きでしょ?」
2人きりになり、奈緒子は言った。
「そうかもね。俺はあんまり花束とかあげたことないけど…」
唐突な話題の切り出し方に尚哉は少し驚いたように目を丸くする。
「私は、花に興味がなかった。
ていうか、好きじゃなかった。
いかにも綺麗でしょ?素敵でしょ?…って感じが苦手で。
押し付けがましい気がしちゃって。
花束なんかもらっても面倒臭いなって思っちゃうの。
花瓶に活けてあげても、すぐ枯れちゃうじゃない?
…でもね。
この頃、花屋の前とか通ると、自然に足が止まるの。気がつくと
500円のミニブーケ買ってたりね。
道端に咲いてる花とか、こういう風に飾られてる花とか可愛くて仕方ないの…
これって、歳なのかな?」
そういいながら、奈緒子は愛おしげに
花を見つめる。
日々、二十代半ばの後輩達と接しているから、31歳という年齢は身にしみて
感じていた。