Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「そんなことないでしょ」
一蹴するように尚哉はくすっと笑い、
「虎が猫になったんじゃない?」と冗談ぽく言った。
「えっやだ私、虎なの?酷い!」
奈緒子は頬を膨らませて、腹を立てるふりをした。
尚哉は笑いながらゴメン、と言ってビール瓶の飲み口を奈緒子の方に向けて、グラスを差し出すように促す。
「…その花、奈緒子みたいだ」
ビールを次いだあと、ぽつり、と
尚哉が言った。
「明るくて元気で綺麗。
でも、どこか影があって、一本だけだといつか折れてしまいそうだ」
「……」
奈緒子の箸が止まる。
なにか始まる予感がして、
胸がざわめく。
尚哉は箸を置き、まっすぐに
奈緒子を見つめた。
「…俺、広島の前の彼女と別れた」
「え……!」
奈緒子はその視線に、
囚われたように目が離せなくなる。
「遠距離ってだけじゃなくて、色々あって、ずっとうまくいってなかったから仕方がないんだ。
先週、来た時に話し合って、向こうも納得してくれた。
今まで、奈緒子には中途半端な態度でいたけど、これからは、もうその必要はない」
「………」
思ってもみない、尚哉の意外な告白だった。
今まで尚哉と彼女は円満だと信じ切っていたから、複雑だった。
何も言えず、奈緒子は俯く。
…尚哉はもう、誰かのものではない…
次第にふつふつと湧いてくる喜び。