Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


「…奈緒子、この後、円山公園、
散歩しに行こう」


デザートの西瓜のソルベを食べながら
尚哉が言った。





タクシーを手配してもらい、乗り込んだ。



八坂神社の付近を通り過ぎた時。

後部座席で尚哉が奈緒子の肩をふいに
抱き、耳元で囁いた。

奈緒子の耳朶に、触れるか触れないかの距離で。


「ホテル…駅前のビジネスホテルじゃなくて、鴨川のそばにあるホテルにしたよ……ダブルの部屋…」


「そうなの……」


尚哉の肩にもたれかかり、小さな声で
答えながら、気後れする自分を感じた。


尚哉の前で衣服を脱いで、身体をあちこちを触られるのが、恥ずかしいと思ってしまう。


今更、純情ぶるのもおかしな話だけれど。

紅いランジェリーも、やり過ぎな気がしてきた。

紅い色に突進するなんて、闘牛みたい…

と思ったりする。


その反面、正直な奈緒子の身体は、その
『ダブルの部屋』で行う行為を期待して、わずかに疼いてしまう。



円山公園にはまだたくさんの人がいて、初夏の古都を楽しんでいた。


その中を奈緒子と尚哉は、当然のように
腕を組んで歩いた。


大きな枝垂れ桜の木の近くを
通りかかった。

今は花もなく、葉と枝ばかりの威厳ある
老木。


奈緒子は尚哉の腕を引いた。



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