Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


床には、2人分の脱いだ衣類が無造作に置かれていた。

尚哉のダークグレーのスーツも。


几帳面な尚哉がスーツを脱ぎっぱなしにするなど、考えられないことだ。


昨夜、といっても数時間前のことだけれど、尚哉はこの部屋に入るなり、ものすごく情熱的にスーツを脱ぎ捨てた。


そして、夢中で奈緒子を貪った。


2人で過ごす夜を夢見ていたのは、尚哉も同じだったのだ。


「シワになっちゃう….」


奈緒子はジャケットとスラックスを拾い上げ、ハンガーに掛けてクローゼットに仕舞った。


白いタオル地のローブを素肌に纏う。

まだ身体が熱く火照っていた。


せっかく3万円も出して買ったのに、尚哉はパリ製のランジェリーをろくに見もしないで奈緒子の身体から剥ぎ取ってしまった。


奈緒子は苦笑する。

初めて知った。

尚哉は女性の服装の好みはあっても下着など、どうでもいいのだ。



窓のボイルカーテンを少しだけ開けてみた。


高層階から眺める京都の街は、少しずつ動き始めているようだった。


「綺麗…」


昨日、プラットホームから見た東山の悠然とした山並み。
そこから続く鴨川。

すべてが清々しく、美しかった。


その景色を眺めながら、奈緒子は昨夜の記憶を反芻する。



尚哉にプロポーズされた……


人生でただ一度だけの、甘く幸せなシーン。


こんなことが自分に起こるなんて…

幸せ過ぎて、胸が張り裂けそうになる。












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