Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
尚哉がおもむろに、車内誌を前の背もたれのポケットに戻した。
「もうこんな時間か。そろそろ、飯にする?」
奈緒子の顔を覗き込んで訊く。
この旅行中、散々至近距離で見つめられているのに、尚哉の真っ直ぐな眼差しに奈緒子はドキドキしてしまう。
まるで小娘みたいに。
「そうね。デパ地下で買ったお弁当、食べようか?
すっごく美味しそうな幕の内だったよね。
あと、缶ビールも飲もっか!車内販売来たら買おう」
そんな気持ちを気付かれないよう、はしゃいだ口調で応える。
尚哉が立ち上がり、上棚に置いた弁当の紙袋に手を伸ばした。
「あ、悪りい…」
揺れのせいで、遠慮なく触れてくる尚哉の身体。
かすかな体臭に奈緒子の心臓は、さらにドキドキしてしまう。
「奈緒子、弁当下ろすよ。受けとって」
「はい!」
こんな会話、夫婦みたい……
奈緒子は嬉しくなる。
急いで送信ボタンを押し、
スマホを脇に置いたショルダーバッグに滑り込ませた。
Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
【fin.】