Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


いつの間にか、陽が暮れ、辺りがすっかり暗くなっていた。


奈緒子が自分の赤い腕時計を見ると、もう8時でびっくりする。

来たのは午後3時だ。

こんな場所に、5時間もいたなんて…


時間の感覚がすっかりなくなっていた。


恵也が「喉乾かねえ?」と訊く。


奈緒子は「うん」と頷いた。


恵也にもらった缶のオレンジジュースはとっくに空っぽになってしまった。


恵也がバイクを引き摺り、二人で公園の出入り口に設置された自動販売機まで歩く。


街灯の灯る夜の公園には、もう誰もいない。


「奈緒子、何がいい?」


いつの間にか、呼び捨てにする。


「えっと…コーラかな」

「ナーイスチョイス!俺も好き」


恵也は小銭を入れながら歌うように言った。

奈緒子はくすくすと笑い出す。


恵也のなんでもない一言で笑いが止まらなくなってしまう。
ナイスチョイスの一言で。


人が見ていたら、陳腐もいいところだ。


恵也は、ペットボトルのコーラを一本しか買わなかった。


さっきの質問からして、自分の分も買ってもらえるのかと思っていた奈緒子は拍子抜けした。

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