Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ パープー号に乗って〜奈緒子の青い春
コーラの代わりに、奈緒子の口の中に入ってきたものは、恵也の熱い舌だった。
まるで奈緒子を屈服させるかのように、恵也は差し入れた舌を乱暴に動かす。
恵也の唾液が、奈緒子のそれと混じり合う。激しく猥雑な音を立てて。
両手で奈緒子の頭を押さえ付けるようにして、密着させた口と口をいつまでも離してくれなかった。
奈緒子の脚が震え出してくる。
胸と頭が熱くなり、目の奥がじんと痺れてきた。
ーー…ねえ……奈緒子。
小指の先についてる赤い糸って信じる?
誰かの声がきこえた気がしたのは、脳が熱くなり過ぎたせいかもしれない。
早くキスをしてみたいという願いが叶ったのに。
本物のキスが、こんなに息苦しいものだとは思わなかった。
COCA COLAと白抜きで描かれた赤い自動販売機と外灯の光が主役の夜の公園で。
恵也の舌を受け入れながら、いつの間にか一筋の涙が奈緒子の頬を伝っていた。
「好きなアーティストはビートルズとローリングストーンズとボブマーリー。
お気に入りの女優はジュリア・ロバーツ。俳優は高倉健。
映画はシザーハンズ。キース・へリング最高だね」
自室のパイプベッドの上で、恵也は幼さの残る奈緒子の滑らかな肩を抱き、煙草の煙を口からふうーっと吐きながら言った。