Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
少しでも大人っぽく見られるように、
精一杯のおしゃれをした。
襟元と袖口にファーの付いた赤いベロアの膝丈ワンピースは、近所のイオンで買ったばかりのお気に入りだ。
それに奈緒子には到底不釣合いなシルバーのパンプスを合わせた。
恵也は逢うなり「スゲー色っぽい!」と褒めてくれた。
そんな格好をして先輩達と一緒に店に入れば、何も言われなかった。
恵也と付き合わなければ、絶対に交流しないタイプの人達。
皆、自己顕示欲がとても強く、攻撃的でどこかが屈折している。
そして恵也と同じく、退屈をとても嫌った。
(ナイフみたいだ…)
奈緒子は心の中で先輩達を恐れた。
表面上は普通にしていたけれど。
その中で、明るくて物怖じしない性格の恵也は、とても真っ当な男にみえた。
先輩達の縦横の繋がりはとても複雑で、奈緒子には、彼らが恵也とどういう関係なのかよくわからなかった。
クラブでは、奈緒子は恵也のそばを片時も離れず、恵也も奈緒子も肩や腰をずっと抱いていてくれた。
こんなところに、子供みたいな自分が来てはいけないことはわかっていた。
やっぱりちょっと怖かった。