Breathless Kiss〜ブレスレス・キス

張り詰めた空気の中、ありさが能天気な声を出し、大人達の眉を顰めさせた。


(わっ、余計な事を…)

奈緒子は焦る。

(なるべく穏便に
釈放してもらいたいのにぃ…)


奈緒子には小心なところがある。

ありさの発言が大人達の怒りを買い、とばっちりで自分も停学になってしまうのでは、と本気で怯えた。


双方の保護者が電話で呼び出された。


奈緒子の母親は、『夫と一緒にすぐ伺います』と答えたらしい。

ありさの母親は、呼び出しを拒否した。


(二人とも来るんだ…煙草なんて、
吸わなければよかったなあ…)


奈緒子は重苦しい雰囲気の校長室で、飾られた歴代校長の顔写真を見ながら思った。


ありさは、入学式の後でも煙草所持がばれていたから、常習性があると判断され一週間の停学になった。

初犯の奈緒子は先生達と両親の前で、二度としないと誓わされ、停学は免れた。


家の居間で母がハンカチを目に当て、泣いているのを見て、奈緒子は顔が上げられなかった。

親に泣かれるのは、さすがに苦しかった。


「未成年なんだから、
煙草なんて吸うなよ」


父は厳しい声音で一言そう言っただけで、奈緒子を叱らなかった。


この頃の両親は、奈緒子の変貌ぶりにどう対処してよいか分からず、苦悩していた。



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