Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
彼らは、娘の素行問題にかまっていられる状態ではなかった。
父は若い頃取った調理師免許を活かし、母と二人三脚で小さなラーメン屋を開業して一年ほど経った頃で、忙殺されていた時期だった。
美味しいラーメン屋などいくらでもあるのに、なけなしの貯金と母の実家から借金をして始めたとても危険な賭けだった。
手も気も一瞬たりとも抜けなかった。
努力の甲斐あり、開店後しばらくするとなんとか店は繁盛して、わずかだが、黒字を出すことが出来た。
その後、近所に住む60歳の主婦をパートで雇ったけれど、あくまでメインは父と母。
店舗は自宅とは歩きで30分ほどの場所にあり、彼らは早朝の仕込みから始まり、深夜近くまで働いていて、泊まり込むことも珍しくなかった。
食事と洗濯の世話だけはするけれど、高校生にもなった娘には、自立して生活してもらうしかなかった。
それをいいことに、奈緒子は好き勝手にした。
奈緒子は恵也に完全にイカレてしまっていた。
何をするのも、どこに行くのも、常に恵也の事を念頭に置く。