Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
奈緒子は悲鳴を上げそうになり、ひゅっと息を吸い込んだ後、右手で自分の口を覆った。
(…いつの間に…?
なんで、こんなことになってるの…?)
この不可思議な現実が受け入れられず、奈緒子は言葉を失う。
下半身は小肥りの斎藤の身体の下になったままなのに、除けることも忘れて呆然としていた。
「…奈緒子?」
灯りの向こうにいる黒い人影が、
男の声で言った。
「何、お前、酔っぱらってこんな空き部屋に連れ込まれてんの?
カラオケスナック行きたいって皆を誘ったの奈緒子じゃん。礼香ちゃん達、待ってるぜ。行かねえのかよ?」
眩しくて、奈緒子には顔がよく見えない。
(あっ…尚哉?)
「あの、藤木さん!」
(え…ちょっと…
斎藤、あんた何言い出すつもり…?)
「悪いんスけどお。
俺ら今いいところなんスよ。
邪魔しないでもらえますか?」
斎藤は、ボツボツ髭の頬を膨らませ、シッシッと手でその人影を追い払う仕草をした。
「……っざけんなあっ!!
何がいいところじゃー!どけー!」
無意識のうちに、奈緒子は斎藤の腹を膝で蹴り上げ、ついでに顔面をグーでパンチしていた。