Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
奈緒子は小さな頃から親に従順な子供だった。
家にいる時は、奈緒子は相変わらず、共働きの母親の家事を手伝った。
流しに汚れた食器が放置してあれば洗い、乾いた洗濯物を取り込んで畳み、部屋の隅に寄せておいた。
だから、父と母は、派手な格好をするようになっても奈緒子がいい子であると信じていた。
髪を染めたことは、校則がある以上許されないことではあるが、それは個人の趣味の問題だと。
奈緒子が警察に捕まるような悪事に手を染めることがなかったのは、彼氏の恵也が最低限の常識をわきまえていたからだ。
恵也は窃盗や薬物を嫌った。
ダセー、といって。
高校の制服も、恵也はやたらな改造はしなかった。
それは恵也なりの美意識だった。
ブレザーの中に紫や赤や青の原色Tシャツを着て、肘のところで腕まくりをする。
ズボンは太めを腰パンにして裾を引き摺るようにして履く。
だが、これはかなりだらしなく、世間の人々から顰蹙を買った。
この頃は、ミサンガをやめ、シルバーの指輪と左腕に細い皮革のブレスレットを愛用していた。