Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
テレビはつまらないし、雑誌もすぐ読んでしまう。
だから「友達が捕まらない時は、これに絵を描くんだ」と恵也は大学ノートを手にして言う。
恵也のいる外科病棟の病室は、大部屋で四台のベッドが入っていた。
入院患者は恵也を含めて男ばかり4人。皆、脚にギプスをしていたり、片腕を吊っていたり。
恵也のベッドは、奥の右手窓際だった。
奈緒子が病室に行くと、恵也はノートに描いた落書きを見せてくれた。
1番、恵也が得意とするのは、似顔絵だった。
担当の医師や看護師や売店のおばさんまでを題材に、絶対似ていない似顔絵を描く。
それを見て、2人はクスクスと笑う。
暇さえあれば、落書きばかりするのは、恵也が2年生になっても変わらなかった
。
「奈緒子。これ、今の俺の気持ち」
「何?見せて」
ベッドを囲む仕切りのカーテンを閉めた空間。ちょっとした密室だ。
その日、そう言って恵也が差し出してきたページには、奇天烈な絵が描かれていた。
「えっ…?」
奈緒子の目は点になった。
いびつな楕円形の目をした二人の宇宙人みたいなのが、動物の交尾のように重なっている絵。