Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
まだ、奈緒子は身仕度を終えていないというのに、松葉杖をついた恵也は隣との仕切りのカーテンをシャッと勢いよく開けてしまった。
「やだあ!
まだボタン留めてないのにぃ」
慌てて、シャツの前を両手で合わせ、後ろに立つ恵也の方を振り向いた時。
奈緒子は見逃さなかった。
恵也が隣のベッドにいるあの男に向かって、口元だけでニヤリ、と笑いかけたのを。
瞬時に理解した。
身体を屈ませるようにして、
ボタンを留めながら思う。
ーー…恵也は、わざとカーテンを開けた……
あいつに見せるために。
恵也はあいつと通じてるんだ…
それなのに、わざと他人行儀にしていたんだ…
騙された気がした。
「ねえ。恵也、なんか隠してない⁈
いつからあいつと仲良くなったわけ?
自分の彼女が、他の男の欲求不満解消の
道具みたいになってもいいわけ?」
奈緒子が売店の前で詰め寄ると
「え?なんのこと?
隣のやつと仲良くなんてねえよ。」
恵也はすっとぼけた。
その答え方がいかにもわざとらしくて、これは絶対に間違いない、と確信した。
「もう、めちゃくちゃ頭に来た!
奈緒子のブラ姿、そいつに見せようとしたんだよ!
冗談にしてもほどがあると思わない?」