Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ さよならパープー号。さよなら初恋
その夜、クラスメイトのありさのピッチに電話して、訴えると
『そんなとこでヤらせるあんたが馬鹿』
と、ありさにしてはまともな返事が返ってきた。
退院した日。
ようやく帰宅した恵也には、 悪ふざけの天罰みたいにショックな出来事が待っていた。
恵也の母が、チャンスとばかり彼の入院中にバイク「パープー号」を処分してしまったのだ。
「ざけんな…あのクソババア!
いつかぶっ殺してやる!」
一見、強面の恵也だが、本気で怒ることは稀だった。
その彼が、顔を真っ赤にして奈緒子の前で母親のことを罵った。
奈緒子の気持ちは複雑だった。
驚いたし、残念だったことは確かだったけれど。
パープー号に跨る恵也の後ろに乗って、いろんなところへ遊びに行った。
海や少し遠くの大きな公園。
新しく出来たショッピングモール。
花火大会。
恵也は奈緒子の為に、ピンク色のヘルメットを買ってくれた。
『恵也我が命』
そのヘルメットに奈緒子は、白いペンでペイントした。
恵也の背中にしがみついて、風を受けている時、いかにも「青春」という気がして幸せを感じた。
だから、恵也と同じく、紫のボディにはとても愛着があった。
母親との約束で、派手にマフラーを改造しないことを条件に恵也のものになったパープー号は普段はわりと従順ないい子だった。
でも、恵也は時々、パープー号を凶暴なワルに豹変させた。
集会の『ケツ持ち』と呼ばれる行為。
ーーあんなに、危険なバイクの乗り方をしていたら、恵也はいつか死んでしまう…
そう思っていたのは、奈緒子だけではなかった。
恵也の母親も知っていたのだ。
「本当、ムカつくね!
親ってろくなことしないよねえ…」
久々に2年生の恵也の教室を訪れた奈緒子は、彼の肩を腕を廻し、調子をあわせる。
恵也は、松葉杖をつきながら登校していた。