Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
決して美人ではないが、気が若く、自分の男関係で忙しい彼女は、息子の素行やそのガールフレンドのことなどどうでもよかった。
「母ちゃん、店の二階におっさんと住んでるんだ。
ハゲで貧相なおっさん。
本人は、ばれてないと思ってるみてえ」
恵也はくくっと笑う。
なるほどなあ、と奈緒子は頷いた。
それなら息子が女の子を部屋に泊めているのを黙認するはずだ。
たまに帰宅する「母ちゃん」とは家の中で何度も遭遇した。
とっくに昼過ぎたのに、寝起きのジャージ姿にくわえ煙草。
働き者の母を見て育った奈緒子には信じられない。
家の中とはいえ、病気でもないのにそんな格好で立ち歩く姿は、母親としてどうかと思う。
そんな風に奈緒子が思っているのも知らず、彼女は奈緒子を見ると、ヤニで黄色くなった歯を剥き出しにして笑顔を見せた。
「あんら!奈緒子!
元気だったあ?風邪ひいてなあい?」
そう言って、奈緒子の腕を
バシッとたたく。
奈緒子はイタタ…と腕をさすりながら、
「あ、ハイ」と作り笑いをして頭を下げた。
(きっと、店にくるおじさんの客たちにも同じセリフを言って、同じことをしているんでしょ…)
奈緒子は思う。
(いい人なんだけど、だらしない人だな。ああはなりたくない…)
心の底で蔑んだ。