Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
「奈緒子、ゆうべはどこにいたんだ!」
次の日の昼過ぎにようやく帰宅した奈緒子を目の前に座らせ、生まれて初めて呼び捨てに呼んだ。
奈緒子の父親は、溺愛する一人娘がいつの間にか親を欺き、男の部屋に入り浸るような女になっていたことに相当、ショックを受けていた。
そんな柄じゃないのに、無理して威圧的な態度をとり、
「学校以外は外出禁止だからな!」と声を裏返しにして怒鳴った。
「そんなこと勝手に決めんなよ!」
奈緒子は涙声で初めて父に反抗した。
奈緒子の悲鳴のような叫び声に父は言葉を失い、呆然としていた。
言い返されるとは、思っていなかったようだった。
変わってしまった奈緒子を目の当たりにして、今まで見て見ぬ振りをしていた現実がわかってきた。
拳を握りしめた暗い表情の父のそばで、母はシクシクと泣いていた。
「やだ…こんなの」
さすがに胸が詰まり、たまらず奈緒子は家を飛び出した。
それでも、両親は店を開けないわけにはいかない。
奈緒子を探しに行くことなど出来なかった。
臨時休業など、親の死に目でもなければ許されない。
それは生真面目な父の信念だった。
結局、すぐに両親は恵也との交際を許した。