Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ 奈緒子、生まれ変わる!
「酷い!奈緒子、浮気なんか一度もしたことないのに!
ねえ!話、済んでないって!
何、帰る準備なんか始めてるの⁈」
はあ?と言うように、恵也は露骨に嫌な顔をした。
「減るもんじゃねえし。あんまグダグダ言うなよ。
綺麗に別れようぜ。
まじで奈緒子なら、いくらでも相手いるから。俺にこだわるなよ」
「………!」
『俺にこだわるなよ』
ここまで恵也の心が冷めていた事実に、奈緒子は愕然とする。
言い返す言葉がなかった。
自然にこういう場面で言うお決まりのセリフが口から出た。
「馬鹿!あんたなんか最低!」
大きな枕を掴み、奈緒子恵也の背中に
何度も打ち当てた。
「本当にごめん。
でももう無理だから!」
枕の攻撃を避けながら、恵也はトレーナーとジーンズを素早く身に付け、一目散に部屋を出て行った。
ーーー奈緒子の16歳の夏が終わると共に。
嵐のような2年間の恵也との恋が、あっけなく終わった瞬間だった。
奈緒子には、まだ事態がよく飲み込めなかった。
「恵也、行かないで…」
1人残された奈緒子は、閉まった扉に向かってつぶやく。恵也はとっくにもういない。
「あっ…」
次の瞬間、はっと気付いた。