Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ いつの日かSomeday
奈緒子と絶縁してから、一年経った。
あの時は、びっくりもしたし、勝手に歌織のことを疑ったことに腹が立ったけれど、今はもう気にしてない。
奈緒子は、自分の親に歌織の名前を言って、恵也の家にお泊まりするアリバイを作ってたみたい。
今年の春。
ちょうど、高校二年に進級したばかりの頃、歌織が今バイトしてるスーパーで、奈緒子のお母さんにばったり会った。
『奈緒子がいつもお世話になっててありがとう。今、奈緒子は?』と訊かれた。
歌織は何も知らないから、
『全然会ってないですよ。
彼のところじゃないですか?』
と答えた。
『…えっ!』
おばさんの顔はゆでダコみたいになって、これは大変、みたいな感じで慌ててレジの方へ小走りしていった。
(なんかバラしちゃったかな…?悪かったかな…)
そう思ったけど、歌織は本当に何も知らないんだから、仕方ない。
奈緒子のほうから、何か言ってくるかな、と思ったけれど何も言ってこなかった。
「歌っ織ぃ!お待たせ。帰ろう!」
ポン、と肩を叩かれ、歌織ははっと我に返る。
横に立ってニコニコしているのは、
パン屋の吉田明美だ。
一緒に帰る約束をしていた。
歌織には、一瞬、明美の声が奈緒子の声に聴こえてしまった。