Breathless Kiss〜ブレスレス・キス

◇◇ いつの日かSomeday



奈緒子と絶縁してから、一年経った。


あの時は、びっくりもしたし、勝手に歌織のことを疑ったことに腹が立ったけれど、今はもう気にしてない。


奈緒子は、自分の親に歌織の名前を言って、恵也の家にお泊まりするアリバイを作ってたみたい。




今年の春。
ちょうど、高校二年に進級したばかりの頃、歌織が今バイトしてるスーパーで、奈緒子のお母さんにばったり会った。


『奈緒子がいつもお世話になっててありがとう。今、奈緒子は?』と訊かれた。


歌織は何も知らないから、
『全然会ってないですよ。
彼のところじゃないですか?』
と答えた。


『…えっ!』


おばさんの顔はゆでダコみたいになって、これは大変、みたいな感じで慌ててレジの方へ小走りしていった。


(なんかバラしちゃったかな…?悪かったかな…)

そう思ったけど、歌織は本当に何も知らないんだから、仕方ない。


奈緒子のほうから、何か言ってくるかな、と思ったけれど何も言ってこなかった。




「歌っ織ぃ!お待たせ。帰ろう!」


ポン、と肩を叩かれ、歌織ははっと我に返る。


横に立ってニコニコしているのは、
パン屋の吉田明美だ。

一緒に帰る約束をしていた。

歌織には、一瞬、明美の声が奈緒子の声に聴こえてしまった。

< 74 / 216 >

この作品をシェア

pagetop