Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
すらりと長くて細い足。スタイルよく、颯爽とこちらに向かってくる。
技術部一課の藤木尚哉だ。
「お疲れさん!」
尚哉は受付の前に来ると、歩く速度を落とす。
軽く右手を上げ、受付にいる奈緒子と
礼香に向かって、にっこりと甘い笑顔をみせた。
彼は自分がどんな顔をすれば、女が喜ぶのか知っているのだ。
「お疲れ様です…」
礼香の頬が瞬時に赤く染まる。
2年前、広島からこちらの支社に異動になった尚哉に礼香が夢中になってしまったのは、社内では有名な話だ。
以前、礼香はあっけらかんと奈緒子に告白した。
『散々、モーションをかけたんですけどね。ダメでしたあ。でも、いいんです。こないだの合コンで彼氏出来たんで!』
そんなことがあっても、サバサバとした性格の礼香は尚哉を慕っている。
ーー尚哉ってば、八方美人だから…
奈緒子は呆れる。
…そうだ。
尚哉は中学時代から、女に対して
八方美人だった。
「あ、坂本さん」
尚哉は、奈緒子の前でピタリと立ち止まり、右手人差し指を向けた。
「頼んでた今日のあれ、忘れないで、よろしくね」
顔は奈緒子の方を向きながらも、目線は横にして、礼香に向かって片目をつぶってみせる。
礼香は、嬉しそうにウフフフ…と低い声で笑った。
「大丈夫ですよ、藤木さん。
忘れてなんかないですよ!」
答えながら、奈緒子は悠然と微笑んでみせた。