Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
目を丸くしていたのは最初だけで、すぐに目を細めて笑顔を見せ、こんなセリフをさらっと口にした。
10代の頃と変わらない、はっきりとした目と眉はそのままに、12年振りに再会した元同級生は、余裕のある大人の男になっていた。
『ねえ。恵也は元気?』
つい、奈緒子は訊いてしまった。
会社で、しかも勤務中にこんな話題はそぐわない、と気付いたのは、尚哉からほんの一瞬、笑顔が消えたからだ。
奈緒子は、しまった…と思うが、口から出た言葉は、取り消せない。
でも、尚哉はすぐに白い歯を見せ、明るい口調で恵也の消息を教えてくれた。
『ああ、恵也は今は、台湾にいるよ。
もう5年くらい前かなあ。
急に、台湾行くって言い出してさ』
『えっ台湾?』
『そう。台湾人の彼女が出来てさ。
彼女が台湾に帰るからって、ついていっちまった。
俺も広島転勤になったし、それきり恵也には何回かしか会ってないけど、母親には時々、メールしてくる。
今では、すっかり現地に馴染んだ生活をしているみたいだよ。
…まあ、あいつらしいよね』
尚哉はそう言った後、フッと笑った。
兄弟なのに、尚哉は恵也を「お兄さん」とは決して呼ばず、呼び捨てか、あいつと呼ぶのは、変わっていなかった。