Breathless Kiss〜ブレスレス・キス

◇◇ 31歳。若い子には負けないから。




受付ブースの中で、奈緒子はちらり、とブレスレットタイプの腕時計を見た。


もう20分も経っていた。


高田礼香は、「トイレに行ってきます」と言ったきり、なかなか戻って来ない。


どうせまた、経理課の同期、阿部ユカリと出会うか何かして、トイレで無駄話をしているか、携帯を使い、友人と喋っているのだろう。

それか、付けまつ毛でも
直しているのか。


1Fにはオフィスはない。
テナントのコンビニと喫茶室が入っているだけだから、奈緒子達が使うトイレには滅多に人が来ない。

受付嬢の専用トイレみたいなものだ。


それをいい事に礼香はそういう事をする。

大卒の彼女は25歳にもなって、今だに学生気分が抜けていないところがある。


どうせ暇だけれど。


(こんなことでは、他の女子社員達に示しがつかない…!)


奈緒子は舌打ちしたくなる。


それから、5分後、礼香は、ちょっと決まり悪そうに、それでもにこやかに現れ「すいませーん。遅くなってしまって〜」とロングヘアを揺らして頭を下げた。


一応、奈緒子も愛想良く
「いいえ〜どういたしまして〜」
と返す。


礼香の香水の匂いがきつかった。


奈緒子はわざと鼻をクンクンさせ、チクリとやる。


「えー、なんかまた、サワデーの新緑の匂いがするう〜
礼香ちゃん、コレ好きだよね〜」

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