Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
奈緒子を含む5人が制服姿で、昼のオフィス街を颯爽と歩けば、振り返るのは、1人や2人ではなかった。
このオフィスで、総務課女子社員は自信に満ち溢れていた。
先週、ちょっとした嬉しい事件があった。
奈緒子は、社長に名前を呼んでもらったのだ。
社長は本来は本社にいるのだけれど、この横浜支社のトップも兼務している。
だけれども、忙しい社長はめったに横浜支社には姿をみせない。
それが、2週間ほど前、会議の為にこちらを訪れたのだ。
そして、午後4時。
会議が終わり、いかにも仕立ての良い、紺のストライプのスーツ姿の社長が、眼鏡を掛けた女性秘書と共に
(この秘書はものすごくプライドが高く、役員クラスの人間でないとろくに口をきかないらしい)
専属ドライバーが運転するセンチュリーを受付の前のフロアで待っていた。
道路が混んでいるらしく、車はなかなか来ない。
秘書は腕時計を何度も見て、苛立ちを隠そうともしない。
それを見ていた奈緒子は、自分が悪いわけでもないのに、なんだか針のムシロに座らされている気分になった。
『やな感じね…早く帰って欲しい』
奈緒子は小声で、
隣の礼香に耳打ちした。
白髪頭で、いかにも貫禄のある体型の社長は、手持ち無沙汰で退屈したのか、フロアの窓際に置かれた応接セットのソファから立ち上がり、ゆっくりと受付カウンターの方まで歩いてきた。
奈緒子の目の前で立ち止まる。