Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
そして、ちらり、と奈緒子のネームプレートを見て「坂本さん、ご苦労様」と
笑顔で言ったのだ。
大企業の社長など、奈緒子にとっては雲の上の存在だ。
びっくりして、一瞬、固まってしまったけれど、すぐに「ありがとうございます」と華やかな笑顔でゆっくりと頭を下げてみせた。
社長はうんうん、と満足そうにうなづき、応接セットのほうへ戻って行った。
隣にいた礼香には、一瞥もくれなかったのに。
礼香には悪いけれど、すごく優越感を感じた出来事だった。
世の中、若ければいいというわけではない。
多少、歳はとっているけれど、若い子たちには負けない知恵と機転がある。
余裕がある。
後輩たちの恋の相談にも乗ってやる。
(本当は、奈緒子自身も恋愛が長続きしないのが悩みだったのに)
社会人になってから、何人かの男と付き合ったけれど、長くて1年続けばいい方だった。
だいたい、半年から1年持たずに終わってしまい、ここ3年は彼氏無しだった。
高2の時、恵也と別れてから、男を本気で愛することが怖くなってしまったせいかもしれない……