Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
恵也とのひりひりするような恋。
10年以上が経ち、今となっては、青春時代の思い出でもあるけれど、その反面、
心に残っていつまでも消えない傷跡でもあった。
『総務課』の礼香を含む後輩達は、
恋愛話が大好きだ。
来客の少ない暇な日は、礼香達の合コン話や恋の話を聞かされた。
いつも聴く役じゃつまらない。
大人になってから、あまり充実した恋をしていない奈緒子は、つい、高校時代の恋の話をしたくなるが、
その度に慌ててブレーキを掛けた。
奈緒子は思う。
(うっかりすれば、元ヤンキーだって、告白するのと同じことだよね…)
それはあまりにも危険過ぎた。
ここだけの話にしてね、といちいち口止めするのも変だし、開き直って暴露してしまえば…目に浮かぶ。
例えば礼香が。
『奈緒子さんて、高校時代、ヤンキーだったんだって!』などと同期のユカリに楽しそうにロッカーで報告する場面。
それは、噂好きの女達の間にあっという間に広まる。
そして、彼女たちには無邪気に尾鰭を付け、社内の若い男性社員との飲み会で笑い話にする。
『えええっ!?
彼氏の部屋に入り浸りの
茶髪エロヤンキー?あの坂本さんが?
しかも、番張ってて、喧嘩がメチャクチャ強かったって?すげえなあ!』
彼らの驚く表情を見て、楽しむ。
男子社員達の奈緒子を見る目が変わる。
礼香にもユカリにもに悪気はない。
責めることなど、出来ない。
奈緒子は、うんうんとうなづく。
(若い女とは、そういうものよ…)