Breathless Kiss〜ブレスレス・キス
◇◇ アボカドわさびマヨネーズ
賑やかな通りに面した、地下一階にあるチェーンの居酒屋。
ここはどんなメニューも300円均一だ。
待ち合わせの時刻午後7時をもう20分も過ぎているのに、藤木尚哉がくる気配はなかった。
出先での打ち合わせが長引き、メールで遅れることは知らされていたから、奈緒子は枝豆とアボカドわさびマヨネーズ和えをつまみにジョッキのビールを飲んでいた。
わさびのつんとした辛味に、アボカドのまったりした絶妙な舌触り。
それを枝豆の塩味でさっぱりとさせたところで、ビールを流し込む。
「うう〜…美味い。
仕事の疲れも吹き飛んじゃう…」
4人掛けのボックス席で奈緒子は1人で身を捩る。
週末の夜で、店は混雑しているけれど、グループごとに仕切られた作りなので、席に案内されてしまえば、周りの騒がしさはそれほど感じない。
一応、さっきメールで尚哉に
[喉乾いたから、一杯だけ、お先にいってまーす]と知らせておいたから、いいのだ。
この店は、尚哉が指定してきた。
せっかくの金曜の夜だし、たまにはお洒落に飲みたくて、山下公園前の老舗ホテルのバーがいい、と奈緒子は言ったのだが、尚哉に一蹴された。