Breathless Kiss〜ブレスレス・キス


「尚哉、草津のホテルで私を捜しにきてくれて、ありがとうね。
尚哉のおかげで私、あのケダモノに犯されずにすんだ。
酔ってたとはいえ、あんなやつと最後までしちゃったら、私、本当、泣くに泣けない。

今日はその救ってくれたお礼。
私、おごるから!
こんな300円均一でなんなんだけど、何でも飲んで食べてね!」


奈緒子は背筋をピンと伸ばし、両手を膝に乗せ、ぺこん、と頭を下げた。


「あー。遠慮しないよ。
俺、腹減ってるし」


尚哉は、面倒臭そうに応える。


テーブルに備え付けのタッチパネルを使い、自分の酒や何やら幾つかのおつまみを選び出す。

奈緒子の意見も訊かず。

いつもこんな感じだ。


この店は初めてだけれど、何度も2人で飲みに行ってるせいで、尚哉は奈緒子の好みをよく知っている。


焼き鳥盛り合わせ、海鮮チヂミ、生春巻きスイートチリソース添え。


それでいて、奈緒子の嫌いなもの、例えば、椎茸を使っているもの、鶏革などは避けてくれる。


酒さえ飲めれば、メニューなど選ぶのが面倒臭い奈緒子には、楽チン極まりない。


タブレットを元の位置にもどした後、
尚哉が上目遣いに奈緒子を見る。


少し、口元に笑いを含みながら。


「経理の斎藤、新婚旅行、西海岸らしいね。朝礼でハネムーンベビー作ってきます、とか言ったらしい」



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