Blue Note ― ブルーノート
「俺の事は奴らに言わないで欲しい」



幼さの残る泣き顔に、アノンは何故が強い庇護欲のような物を感じた。



「お願いだから」



細い指でアノンの服の袖を力いっぱい握って、少年は涙声で訴えた。



「わかった」



少年は安心したのか、袖を握っていた手を緩める。



「でも、治療はする。」



少年の顔が一瞬強張る。


何故あんな事を言ったのか、自分でもよくわからなかった。



「安心しろ、君を治療するのは僕だ。治安局に君の事は言わない」



正式な医師でない自分がどこまでやれるのか、正直不安だった。
でも彼を、この瞳を失いたくないと、ただその想いだけがあの時の自分を突き動かしていた気がする。



アノンは少年を背負って、再び路地を走り出した。 少年はまるで空っぽのリュックのように軽い。



「大切な約束をしたんだ」



アノンの耳元で少年が言った、「死にたくない」と。細く頼りない声だった。その声に、意識をぴしゃりと叩き起こされる。



救わなければと、それが自分の使命のようにも感じた。


少年を死なせてはいけない、自分が救わなければ。



「死なせたりなんか、しない」







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