Blue Note ― ブルーノート
「イチ?」

「僕のかわりに……この国がどうなってもいいなんて……お願い……そんな事言わないで」



顔は見えなくともわかる、イチは、泣いてる。そして、そうさせたのは自分だ、とゼロは罪悪感に似たような物を感じた。



「君が……奴らに開放……されるなら……幸せになれるなら……僕は命を……捧げだって構わない」

「俺だって」



ついに、外まであと一歩という所まで来た。だが最後の一歩を目前に、ゼロは歩みを止めて、床に膝をつく。



「俺は……どうすればいい?」









もし立場が逆だったら、イチがただの重荷にしかならない自分を、背負って連れてくなんて言ったら、ゼロは彼を全力で阻止するだろう。



「ぐずぐずしてんじゃねーよ……クソッたれが」



普段は決して口にしないイチの罵り言葉に、いつもの自分だったら、その慣れない口調を笑っていただろう。



だけど今は、その言葉に背中を押され、心打たれた。



お前には、他にやるべき事があるだろうが、立ち止まってる時間なんか、1秒だってありはしない



動け、止まるな、振り返るな、前を向いて、他の奴らがやったように、やり遂げるまで、死ぬまで走れ。




頭の中にこだまするその声にぴしゃりと意識を叩き起こされる。


そうだ、計画の実行が最優先だ。


失敗は許されない。なんとしても、成功させなければ、でなければ




俺達に未来はない。










イチの身体を床に横たえ、最後の一歩を踏み出して、ゼロは一人外へ出た。振り返り、扉の向こうにいるイチの手を握る。



「必ず、必ず戻るから、俺は、お前を見捨てないから」



唇を強く噛み締め、頬を伝って口の中に入り込んでくる涙を飲み下す。


扉はみるみる閉じてゆき、もうゼロの顔の半分ほどの幅しか開いてない。


その僅かな隙間から、腕を抜き取る。



「絶対に」



その言葉を力を込めて言い放ち、ゼロは扉へ走った、振り返らずに走り続けた。



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